浄心寺の桜

第4回 病と出会うご縁

なぜ私がこんな病気に?

 「心のケア・ボランティア」として末期患者さんを訪問してみて、改めて知った共通の悩みに「なぜ私がこんな病気になってしまったのだろう」という病気との出合いに関する苦しみがあります。この苦しみは、胃ガンや肺ガンといった完治の難しい病気に出合ってしまったという問題だけではなく、思いも寄らぬ時期に病気と出合ったことから生じる場合もあります。事業を興したばかりであったり、やりかけていた仕事をあと一歩で成し遂げられる時期であったり、どうして人生の「この時期」に病気になってしまったのかと、悔しさや失望に見舞われるのです。

 病気の受け止め方は、あらかじめ「親もガンで、私も同じ体質だから仕方がない」と、自分の体質に覚悟していて病気を受け入れられても、時期については「なんで今、この時期に病気にならなければならないんだ」と、思い通りにならない人生に落胆する人は多いものです。

リンゴのイラスト

 せっかくここまで懸命に生きてきたのに、なぜ病気にならなければならないのかと、人生の努力に対して、報われないことへの悲しさや恨みさえ感じる人もいるものです。

 このような病気との出合いを、お釈迦さまはどのように受け止めなさいとお説きになっているのでしょうか。

 私は、患者さんから病気との出合いについて問われたとき、ご縁の話をします。「つらいご縁と出合いましたね」と。すると「こんなつらい出来事も『ご縁』というのですか? 私は健康にご縁がなかったのだと受け止めています」と、患者さんは自らのご縁に対する考え方を聞かせてくれます。

 どうやらお釈迦さまの説かれた「ご縁」と世間一般的に理解されている「ご縁」には、いささかの異なりがあることに気づかされます。

 一般的には、良いこと、好ましいことに出合ったとき「ご縁がある」と言います。しかし、この場合は、「私にとって」良いこと、好ましいことであり、私の都合を中心にした考え方です。これに対してお釈迦さまの考え方は、つらく思い通りにならないことも「ご縁」と受け止めるのです。

原因を確かめたい現代人

 仏教は「すべてはご縁によって起る(縁起)」ことを説き、ご縁を大切にする教えといわれます。いただいたご縁は、自分の都合を差しおいて正面から受け止め、前向きに生きることを勧めます。ところが、現代の科学的なものの見方に慣れている私たちは、何事にも「原因」を目に見える形で確かめられないと、納得できないという生活をしています。しかし、ここでいう原因とは、本来の物事の成り立ちの一面的な意味だけしか指し示していないのです。

 仏教では、すべての成り立ちは「因縁」によると考えます。これは直接的にかかわり合う「因」と、間接的に見えない力でかかわり合う「縁」とが結びついた働きを「因縁」と言います。現代人は、目に見えない縁の働きがあることに気づかずに、目に見える原因にとらわれて「なぜ? どうして?」と心を焦燥させてしまうのです。

 その結果として、病気をはじめ、自分に都合の悪い出来事の原因を何とか探したい一心で、霊能者にすがったり、前世の亡き人びとの行いに責任を転嫁し、供養が足りないことなどを心配したり、それを助長する人の言葉に惑わされたりするのです。

ご縁と生きる

 振り返れば、私たちが生まれてきて、こうして今、存在するすべてのことは、みな因縁によって成り立っているのですが、それはしっかり目に見えることばかりでしょうか。

あかちゃんのイラスト

 父と母の結びつきから私たちは誕生しました。これは目に見える原因です。しかし父と母は、どうして出会ったのでしょうか。これは目に見えないご縁です。いや、両親は見合いで、必然的に結婚したのだという場合もありますが、ではなぜ、仲介者は父と母を選んだのでしょうか。これもご縁の働きといえるはずです。

 自ら努力をして成功したという人も、実は、不思議なご縁の力に支えられてきたのではないでしょうか。

 「なぜ病気になってしまったのか?」。この問いかけの答えは「わからないけれど、そのようなご縁をいただいた」としか言うことができないのです。

 厳しい現実に向かう人も、どうか匙を投げずに、いただいたご縁の’もと、このいのちを大切に生きてまいりましょう。報われないということは、決してありません。与えられたご縁を正面から受け止めて、丹精込めて生きた人には、ちゃんと報いがあるはずです。死を迎えるときには、仏さまの世界におもむくことができ、残された人びとには功徳が分け与えられるはずです。そう願って生きていきましょう。

佼成 2009年(平成21年)4月号掲載

→5月号 最期の言葉の意味するもの(上)

佐藤雅彦(さとうまさひこ)
1958年東京生まれ。浄土宗浄心寺(東京・文京区)住職、大正大学非常勤講師
現在、宗教家として生命倫理の問題に取り組むほか、死を間近にした人の訪問
小・中学校で「いのちの授業」を行っている
共著に『いのちに寄り添う道』(一橋出版)など
イラスト:すみもとななみ
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